四方を海に囲まれ河川も多い日本では、毎年多くの場所で水害が発生しています。
特に近年はゲリラ豪雨のような異常気象も昔に比べて多く、水害に見舞われることも多くなっています。
大きな水害が起こると多くの土地や建物が浸水の被害に遭いますが、そのように浸水の被害を受けたことのある土地や建物をお持ちの方の中には、「浸水した土地や建物は価値が下がってしまうのではないか」と心配になる方も多いでしょう。
そこで今回は、浸水が起こった土地や建物の価値の変化について解説します。
それとあわせて、そもそもの土地の価値の決まり方や浸水の意味、そして浸水があった土地を売る際のポイントもご紹介します。
浸水の被害に遭ったことのある土地をお持ちの方は、ぜひご覧ください。
土地の価値はどう決まる?
土地の価値は広さや立地条件をはじめとした多くの要素から決まります。
そのような土地の価値を左右する要素としては、例えば以下が挙げられます。
1.広さと形状
基本的に、土地は広ければ広いほど価値が高くなります。
その土地の使い道の幅は面積や形状によって左右されるため、使い道が大きく制限されるような狭い土地や形の悪い土地は価値が低くなる傾向にあります。
ただし、その地域での一般的な土地と比べて面積が大きすぎる場合は、坪単価で見ると価値が下がるため、必ずしも広ければ広いほど良いというわけでもないと言えます。
2.立地条件
都心部の土地は田舎の土地に比べて価値が高いように、立地条件は土地の価値を最も左右する要因であると言っても過言ではありません。
ただし、一口に立地条件と言っても、土地の方角や交通アクセス、安全性や利用しやすさなど、多くの条件が挙げられるため、「立地条件が良い」というのがどういう状態かということは簡単に説明できるものではありません。
1つ1つの要素が積み重なって「立地条件が良い」という状態が生まれると考えると良いでしょう。
3.周辺環境
立地条件と被る部分もありますが、土地の周辺環境、例えば周辺にある施設の充実度も土地の価値を決める要素の1つです。
駅やショッピングモール、コンビニ、スーパーマーケット、学校、病院など、便利な施設が近くにあると、その土地のニーズが高まるため、価値が高くなります。
一方で、そういった便利な施設が近くになかったり、墓地や風俗店、刑務所、騒音や悪臭を発する施設などのいわゆる「嫌悪施設」が近くにある土地は、価値が低くなりがちです。
4.土地の需給バランス
多少条件の悪い土地でも、都心部などの土地の需要が高いエリアでは価値が高くなります。
反対に、条件の良い土地でも、周りに土地が余っているようなエリアでは価値が高くなる可能性は低いです。
5.景気や都市計画
不動産価格はその土地の条件だけではなく、景気の動向によっても左右されます。
例えば、新型コロナウィルスの流行があった後の2021年は商業地の地価が大きく下落し、反対にリモートワークが浸透したことによって東京近郊の住宅地の地価が上昇しました。
また、今後大規模な開発が行われるエリアに近い土地は、都市計画による利便性の向上が見込まれるため、価格が高くなる傾向にあります。
浸水とはどういうこと?
前述の通り、土地の価値を左右する要素の1つとして立地条件が挙げられますが、この立地条件の中には「災害リスク」や「土地の安全性」といったことも含まれます。
災害リスクとしてよく注目されるのが水害のリスクですが、水害による被害というと土地や家屋の浸水を思い浮かべる方も多いでしょう。
「浸水」とは、何かが水に浸かることを表す言葉で、例えば大雨や洪水などで建物が水に浸かってしまった場合に「浸水」という言葉が使われます。
浸水と似た言葉に「冠水」がありますが、こちらは、洪水などによって普段は水がない土地に水が流れ込み、地面や道路などが水で覆われてしまった状態を指します。
つまり、浸水は建物に水が入り込むことで、冠水は田畑や道路などが全体的に水に浸かってしまうことを指します。
このように浸水と冠水は対象が違うほか、冠水はより広範囲が水に浸かることといったイメージの違いがあります。
浸水が起こった建物や土地は価値が下がる?
建物も土地も価値が下がる可能性が高い
建物が浸水被害に遭うと、その建物や土地の価値には多かれ少なかれマイナスの影響が及んでしまいます。
例えば木造一軒家が浸水被害に遭うと、木材が過剰に水分を吸収し、反りやたわみを引き起こしてしまいます。
それによって床がギシギシと鳴るようになったり、建具の開閉ができなくなったりといった問題が出てくる場合もあるため、資産価値には少なからず影響してしまいます。
土地の場合は建物と異なり、直接ダメージが及ぶことは基本的にありませんが、「浸水被害があった」という事実によって、地価にマイナスの影響が出てしまう場合があります。
誰しもがせっかく購入した土地や建物で浸水の被害には遭いたくないため、そのような災害リスクの高い土地、とりわけ実際に被害を受けた土地となると、どうしても他の土地に比べて買い手が見つかりにくくなる可能性が高くなってしまうのです。
現在では取引時に災害リスクの説明が義務化されている
これまで水害で多くの命が失われたり建物が被害に遭ったりしてきたことから、現在では宅地建物取引業法施行規則の一部が改正され、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地を説明することが義務付けられています。
このことは不動産を売る側からするとマイナスになる可能性がありますが、購入希望者にとっては安心して不動産を購入できる良い制度であると言えます。
また、「取引前にきちんと説明をすることで、後々のトラブル発生を防げる」という意味では、売主にとっても必ずしもマイナスであるとも言えません。
浸水があった土地を売る際のポイント
実際に浸水の被害にあった土地を売る際には、以下の2つのポイントに注意する必要があります。
説明義務をきちんと果たす
不動産の売買を行う際には、売主は買主に不測の損害を与えないように、水害による被害が生じた事実を事前に説明する義務を負います。
不動産の購入を検討する際には、買主は価格や利便性だけでなく、災害リスクをはじめとしたさまざまなリスクについても検討を行います。
そこで、売主は買主に対して判断材料となる情報を渡す必要があるのです。
売主が買主に対して説明義務を怠ると、買主から訴訟を起こされた際に裁判で不利になるため、説明義務をおろそかにしないことが重要です。
契約不適合責任について知っておく
契約不適合責任とは、売買契約の履行において、買主に引き渡した不動産が、種類・品質・数量に関して契約内容と合っていない場合に、買主に対して負うべき責任です。
簡単に言うと「買う約束をしたものと現物が違う」という買主の主張を認めて、売主に負わせる責任のことです。
こうした契約不適合責任が定められている以上、不動産の売主は買主に対して、不動産の状態をきちんと嘘偽りなく伝える必要があるのです。
水害リスクに関して言うと、土地の売却後に浸水被害が生じたとしても、直ちに土地そのものに瑕疵があるとはみなされないケースがほとんどです。
つまり、売却した土地で浸水被害があったとしても、売主が契約不適合責任に問われる可能性は低いということです。
そもそも、浸水が起こるかどうかはその土地だけの問題ではなく、一般的な場所の特性や周辺の開発状況、道路の排水設備など、土地以外の要因も大きく関わっています。
また、土地の性質は恒久的に続くものではなく、年月の経過によって問題が解消されたり、新たな問題が生じたりする場合もあります。
そうしたことから、浸水被害に関しては、取引時にきちんと説明を行なっていれば、契約不適合責任についてそれほど心配する必要はないと言えるでしょう。
まとめ
今回は、土地の価値を左右する要因や、その要因の1つである「水害リスク」や「浸水被害」について解説しました。
土地の価値は多くの要因によって左右されますが、中でも災害リスクは近年重視する方が増えてきており、実際に法律によって取引時の説明が義務付けられるといった動きが見られます。
買主に不利益を与えないためにも、トラブルを防ぐためにも、災害リスクに関する説明をきちんと行い、適切な取引を行うことが大切です。