これは不動産関連の法律や知識を盛り込んだミニドラマです。
物語形式で難解に思われがちな法律や知識を出来るだけ分かりやすく伝えています。
なお、このドラマで出てくる登場人物、団体等はフィクションです。
吉田美咲は、会社の昼休みに同僚の森田から聞いた話が頭から離れなかった。ある日、森田はカフェテリアでため息をつきながら「田舎の土地を相続したんだけど、売れなくて固定資産税が重くのしかかってるんだよね…」と話し始めた。
美咲は、森田がどんなに苦労しているか想像がつかなかったが、話を聞いているうちにその問題の深刻さに気づかされる。「相続なんて、一見素晴らしいことに聞こえるけど、実際には大きな負担になることがあるんだな」と心の中で呟いた。
森田の両親が亡くなり、彼は田舎にある家と土地を相続した。しかし、その土地は利用する予定がなく、売るにも買い手が見つからない。田舎のため土地の価値は低く、維持費や固定資産税だけが毎年発生する。家の手入れも必要で、庭木の伐採や建物の保全も欠かせない。
「土地を持っているって、それだけでプラスだと思ってたけど、そうでもないんだな」と美咲は思わず呟く。森田は、「親の家を残しておきたかったけど、こんなにお金がかかるとは思わなかった。固定資産税も都市計画税もかかるし、結局、保有してるメリットはほとんどないんだ」と肩を落として言った。
美咲は何か良いアドバイスができないか考えたが、自分には知識がないことに気づいた。そこで、彼女は後日、インターネットで調べ始めた。そこで見つけたのが、「相続土地国庫帰属制度」という新しい制度だった。
2023年4月に施行されたこの制度は、不要な土地を国が引き取るというもので、所有者が一定の負担金を支払うことで、税金や維持費から解放されるという仕組みだった。だが、すべての土地が引き取られるわけではなく、建物が残っている土地や隣地との境界が不明確な土地などは対象外だった。
美咲はこの情報を森田に伝えるべきか悩んだが、彼が少しでも助かるかもしれないと思い、翌日の昼休みに声をかけた。
「森田さん、この間の土地の話なんだけど、『相続土地国庫帰属制度』って聞いたことある?」と彼女は切り出した。
森田は興味を持った様子で、「それ、どういう制度なんだ?」と尋ねた。美咲は知っている限りの情報を説明し、法務局での事前相談が無料で何度でもできること、審査手数料が必要になること、そして負担金の話を伝えた。
「そんな制度があるなんて知らなかったよ。もちろん負担金はかかるけど、今のまま放置しておくよりはマシかもしれない」と森田は少し明るい表情を見せた。
「ただ、審査に半年くらいかかることもあるらしいから、早めに相談した方がいいかもね」と美咲が言うと、森田はうなずきながら「ありがとう、美咲さん。早速、法務局に相談してみるよ」と感謝の意を表した。
その日の夜、美咲は自分の家に帰る途中で、ふと森田の話を思い出し、家族や自分の未来について考えた。親が健在であることに感謝しつつ、いつか自分も同じような問題に直面するかもしれないと心の片隅で思ったのだった。