これは不動産にまつわるミニドラマです。
難しいイメージのある不動産のニュースや法律・知識を物語形式にすることにより、分かりやすく伝える試みです。
※ 本ドラマは実際の法律や記事に基づいて作成していますが、時期や地域および状況によっては内容が異なる可能性もございます。御注意ならびに御了承くだいますようお願い致します。
※ 本ドラマで出てくる登場人物、団体等は全てフィクションです。
私はO市で不動産コンサルタントを営んでいる【F】と申します。今日は、増築工事と所有権に関するご相談をもとに、不動産契約で押さえておきたいポイントについてお話しします。先日、【Aさん】というお客様が緊張した面持ちで事務所にいらっしゃいました。Aさんは長年お住まいのご自宅を増築したいと考えているそうです。
Aさんの不安
Aさん:「Fさん、こんにちは。実は家の一部を増築しようと考えているんですが、少し不安がありまして…。以前、別の工事で支払いの時期に関して業者さんとトラブルになったことがあり、それで相談に来ました。」
F:「なるほど、確かにそれは心配ですね。まず、工事のスケジュールや支払いの流れについて、具体的にお伺いしてもよろしいですか?」
Aさん:「はい。今回は家の一部に新しい部屋を増やす予定で、既存の建物と一体化させる形の増築工事です。業者さんは紹介を受けて信頼できる方なのですが、工事が完了しても支払いが少し遅れてしまった場合、その部分の所有権がどうなるのか気になりまして…」
工事完了後の「所有権」と民法の考え方
Aさんの話から、過去のトラブル経験が今回の不安につながっていることがわかりました。確かに、工事代金の支払いが遅れてしまう場合、増築部分の所有権がどうなるのかは気になるところです。
F:「Aさん、増築部分が既存建物と一体化する形で完成した場合、民法上、その部分もAさんの所有物となります。工事の完成によって、増築部分はAさんの建物と一体化し、『付合(ふごう)』という法律の原則が適用されるためです。この原則に基づき、増築部分も既存建物と同様にAさんの所有物とみなされます。」
Aさん:「そうなんですね!でも、どうして支払いがまだ終わっていなくても私のものになるんですか?」
F:「『付合』というのは、民法242条で規定されており、ある物が元々の所有物と物理的に一体化した場合、それらは一体の所有物とみなされる、という考え方です。そのため、工事が完成し増築部分が既存の建物と一体化した時点で、その所有権もAさんのものとなるのです。」
代金支払いと業者の権利について
F:「ただし、Aさんが所有権を取得しても、工事業者【Bさん】には『未払い代金の請求権』が残ります。もし支払いが遅れる場合、Bさんはこの請求権を法的に行使することが可能です。また、未払いが長引いた場合には、Bさんが『先取特権』と呼ばれる法的な回収権を主張できるケースもあります。こうした権利があるため、支払い条件やスケジュールを事前にしっかり確認しておくことが大切です。」
Aさん:「なるほど、そういう流れなんですね。支払いの管理も大事なんですね。」
事前確認の重要性
このように、増築部分の所有権が付合の原則に基づいて移ることや、代金支払いが滞った際に業者が法的請求権を持つことについて、Aさんもご理解いただけたようです。不動産の増築工事では、事前に契約内容を細かく確認し、必要に応じて弁護士や不動産の専門家に相談することで、トラブルを未然に防ぐことができます。支払いのスケジュールや違約金の取り決めを契約書に明記しておくことも重要です。